トップページJADMAお役立ち情報ジャドマブログ
未成年者による契約と取り消し
顧客対応

未成年者による契約と取り消し

未成年者による契約と取り消し

はじめに

昨年、政府が民法の成人年齢を現行の20歳から18歳に引き下げるための改正案を、本年の通常国会に提出するとの方針を発表したことは、既に周知のことと思います。改正法が成立した場合、早ければ2020年から導入されるとのことです。成人年齢が引き下げられた場合の影響については、各界において論議がなされているところですが、今回は改めて現行の規定における留意点を、通信販売の顧客が未成年者であったことを理由に、その親などから取り消しを求められたなどの相談事例から考えます。

相談事例1

3万円程度の衣料品を販売したところ、その父親から電話があり、「相談機関から助言を得た。購入者は高校生の息子だ。未成年者であることを理由に返品したい」と要求されている。当店は利用規約に「未成年者の場合は保護者の同意が必要」「未成年者で、かつ申し込みがあった場合は成年とみなす」旨を表示している。これをもって、返品を拒否しても良いか。(非会員社)

相談事例2

3カ月前にアーティストグッズを購入した顧客が支払いを滞納したため、督促状を発送したところ、その親から苦情が寄せられた。親の話によると、購入した商品は約1万円だが申込者は中学生の男児とのことで、「未成年者取り消し」を主張している。
当社の「利用規約」には、「未成年者は当サイトの利用ができない。もし利用した場合は、保護者の同意を受けたものとみなす」という文言に併せて、「当サイトは消費者の自由意思により利用が可能である。但し、利用者の責任において利用するものとする」と表示している。それをもって「未成年者取り消し」の主張に対抗できないだろうか。なお、「年齢確認画面」というものは設けていない。(会員社)

相談事例3

古切手などを始め、趣味のグッズを販売している。未成年の継続利用顧客(13歳)から購入代金の「銀行口座引き落とし」を依頼され、手続き書類(口座振替依頼書)を送ったところ、当該顧客の親から「何で子どもにこんなものを送ってくるのか?」と苦情が入った。未成年者に「口座振替依頼書」を送ってはいけないのか。なお、当該顧客の平均購入額は一回あたり数百円で、高額とは言えない。(会員社)

相談事例4 消費者相談(参考)

未成年の親から消費生活センターに相談があった。「16歳の女子高校生が、スマホで『青汁』を注文した。4回の購入継続が条件になっているものだった。当該サイトのホームページには、『未成年者の申し込みは保護者の同意が必要』と表示があったが、親の同意を得ずに申し込んだものだった。2回目のお届け時、親が気付き、『娘は親の同意を得て注文していないので解約したい』と通販会社に申し出たが断られた」とのことだった。当消費生活センターからも、契約者が未成年者であり、かつ保護者の同意を得ていなかったことを理由に交渉したが、会社の「解約できない」との主張は変わらなかった。(消費生活センター)

相談事例5 消費者相談(参考)

消費生活センターから「高校生の息子が親名義の携帯電話を利用しているが、その支払いも親の口座振替で行っている。当該子供がその携帯電話を利用して約4万円のDVDボックスを申し込んだ。親は未成年の申し込みを理由に取り消しを希望している。この場合の取り消しは可能か」という相談が寄せられた。(消費生活センター)

相談室長より 助言と解説

民法の基本―「未成年者契約」は法定代理人の同意が必要

未成年者(満20歳未満の者)が商品を申し込んだことを理由に、事業者が契約の取り消しを求められたケース、また消費者が事業者から取り消しを断られたケースなど、双方の相談は例年複数寄せられます。

まず、全ての事例に共通する「未成年者契約」について、民法に則って以下の通り基本的な考え方を示します。

未成年者が契約を行うときは、法定代理人(親権者=親など)の同意を得る必要があり、未成年者が行った契約は、原則として未成年者本人・親権者が取り消すことができます。契約が取り消された際には、商品を返還しなければなりませんが、既に商品を使用していても現状のままで返還すればよく、使用損料や代金、損害賠償等を支払う必要はないとされています。

但し、以下の場合については取り消しができません。

イ.法定代理人の同意を得て行った契約

ロ.法定代理人が目的を定めて処分を許した財産の範囲での取引契約

ハ.法定代理人が目的を定めないで処分を許した財産の範囲での取引契約

ニ.許可された営業に関する行為

ホ.未成年者が婚姻している場合

ヘ.未成年者が詐術を行った場合

ト.親権者の追認(事後の承諾)、本人の成人後の追認や成人後に代金を支払ったとき

チ. 時効(成人になって5年)になったとき

ロ.およびハ.は、いわゆる「小遣い(自由財産)の範囲」を指します。ヘ.の「詐術を行った場合」とは、詐欺的な手段を使って、相手に自分が成年であると思い込ませて取引したときなどを指します。

広告や申し込み画面上で明確に 法定代理人の同意確認を表示して、未成年者契約のリスク回避を

この基本的な考え方にしたがって、1~5の事例を考えます。

1は「未成年の場合に保護者の同意が必要」と言いながら、「当該同意の有無」を確認することなく、申し込みがあった場合には「成年とみなす」としています。2も同様ですが、さらに未成年者の「法定取消権」を否定するような書きぶりです。「成年であるか」や、「保護者の同意有無」を確認せず、申し込みがあった場合は、「成年であること」、また未成年者であっても、保護者(法定代理人)の同意があったとみなすことは、取り消しのできない前述のイ.~チ.(ロ.およびハ.を除く)に該当しないところから、少々無理があると思われます。

したがって、事業者としては、未成年者による申し込みが予想される場合で、かつ商品内容、金額等から取り消しによるリスクが高いと考えられる場合は、そのリスクを回避することを考慮して、契約申し込みの受付時に、申込者の年齢及び申込者が未成年者である場合の法定代理人の同意を確認する手段を講じる必要があります。

法定代理人の同意確認の方法としては、以下が考えられます。そして、成年であることが確認できた場合や、親権者の同意があったと確認できた場合にのみ、販売を可能とします。

◎「未成年者の場合は親権者の同意が必要である」旨、広告や申し込み画面上で明確に表示・警告する。

◎申込者に年齢又は生年月日の申告を求める。

◎未成年である場合には、「親権者の同意を得た旨」の申告を求める。

親の同意を得るための何らかの手段が取られていたかがポイント

ついては、1~2にみられるような事業者側が十分対応をしていないケースでの「みなし同意」は、確認ができたとは認められないと考えるべきで、このような契約について「取消権」を主張されることを、事業者はリスクとして考えねばなりません。

3については、金額から判断し一般的には「小遣い」の範囲と言えそうです。ただし、今後の取引については予測できません。しかも「銀行口座振替」ですと、都度払いに比較して金銭感覚が鈍化する可能性もあります。ついては、事業者としても慎重に対応することが必要です。

4は、保護者の同意は受けておらず、一見取り消しができそうですが、ポイントは別にあり、取り消しができないロ.・ハ.のケースでいわゆる「小遣い」の範囲であったか否かが関連します。仮に当該16歳の高校生が、4回の定期購入であることを認識しており、かつ毎月の自分の小遣いで支払いが可能であると判断していたとすれば、取り消しは難しいと考えられます。

5については、少々複雑です。通常の携帯電話利用料と併せてその他物品やサービスの料金を請求されたケースです。それが、廉価な情報料などであれば、気づかなかったとも考えられますが、毎月の請求額に比べ高額だったことから親が気づき、トラブルになったものと思われます。相談のポイントは「携帯電話の契約者が親の場合、携帯電話を通じての個々の取引契約もすべて当該契約者の責任となるか」ということだと思われます。

経産省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」によると、「携帯電話端末を利用した電子契約では、携帯電話事業者が提供する課金システム(キャリア課金、携帯電話の利用料と合わせて売買代金や情報料等を請求する)が利用されていることも多いが、個々の電子契約はあくまでも携帯電話の利用契約とは別途、申込者とサービス提供事業者間に成立するものであり、利用者が未成年者であれば、原則として個々の電子契約ごとに法定代理人の同意の有無が判断されることに留意しなければならない」とされています。

さらに、「携帯電話の契約者が誰であるかによらず、個々の電子契約の申込者が誰か、という観点から判断する必要があることに留意すべき」「未成年者取消しに対してあらかじめ対策を行う場合には、申込者の年齢確認を申込受付段階で行うことを検討する必要がある」ともされています。

この5においても、親の同意を得るための何らかの方法が取られていたかが主要なポイントとなりますが、仮に同意が得られていなかった場合は、DVDボックスの価格が小遣いの範囲であったか否かが次のポイントになると考えられ、個別に検討することになります。

若年者も含め消費者は、欲しい商品があれば、何としてでも入手するよう行動するのが常です。ついては、事業者は前述の◎印3点を確実に実行することで、トラブルを回避するべく広告作りを行うことが大切です。

※紙面の都合により、事例内容の一部を編集している場合があります。

※参考:「電子商取引及び情報財取引等に関する準則/未成年者による意思表示」(経済産業省)