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(2/2)転売禁止を理由とする販売拒否について
法律関係

(2/2)転売禁止を理由とする販売拒否について

(2/2)転売禁止を理由とする販売拒否について

4.Bto Bの取引の場合

 ここまでは、転売禁止を求める相手を一般消費者として検討してきたが、転売目的で購入する個人は、そもそも一般消費者といえるのかが問題となる。通信販売で大量の商品を注文する個人は、多くはフリマアプリやネットオークション等に出品して転売する。そこで、このような個人は一般消費者か、それとも事業者なのか、一般消費者と事業者との境界線が問題となる。

 そもそも通販事業者が注文を受けて、相手が一般消費者か、事業者か、あるいは個人の場合に転売目的かどうかを判断すること自体も困難である。

 特定商取引法上、「販売事業者」に該当するかについては、「インターネット・オークションにおける『販売業者』に係るガイドライン」において、すべてのカテゴリー・商品について、以下の場合には、特別の事情がある場合を除き、営利の意思を持って反復継続して取引を行う者として販売業者に該当するとし、数値基準として、過去1カ月に200点以上又は一時点において100点以上の商品を新規出品している場合を挙げている。但し、トレーディングカード、フィギュア、中古音楽CD、アイドル写真等、趣味の収集物を処分・交換する目的で出品する場合は除くとしている。その他、落札額の合計が過去1カ月に100万円以上である場合、落札額の合計が過去1年間に1000万円以上である場合を挙げる。

 上記にかかわらず家電製品等、自動車・二輪車の部品等、CD・DVD・パソコン用ソフト、いわゆるブランド品、インクカートリッジ、健康食品、チケット等については一時点の出品数について基準を設けている。

 ただし、これは、特定商取引法上の問題であって、独禁法その他の法律上の取り扱いについては、必ずしも明確とはいえない。

 仮に、フリマアプリやネットオークション等に出品して転売する個人を事業者とみた場合どうなるか。取引の相手方事業者に対して転売を禁止することは、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流取ガイドライン」という。最終改正平成29年6月16日)によれば、「取引先に関する制限であり、事業者が流通業者に対して、商品の横流しをしないよう指示すること(以下「仲間取引の禁止」という)は、取引の基本となる取引先の選定に制限を課すものであるから、その制限の形態に照らして販売段階での競争制限に結び付く可能性があり、これによって価格維持効果が生じる場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる。さらに、仲間取引の禁止が、安売り業者への販売禁止のために行われる場合には、通常、価格競争を阻害するおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる」とされている。

 不当な高値で売ることが問題だとすると、取引の相手方に対して最高価格を設定し、指示することはできないか。

 一般に、事業者は、取引相手の販売価格を不当に拘束することはできず、最高価格を設定することもできない(再販売価格の拘束)。ただし、公正取引委員会は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大が進む中でマスクのような商品について、小売業者が不当な高価格を設定しないよう期間を限定して、メーカー等が小売業者に対して一定の価格以下で販売するよう指示する行為は、通常、当該商品購入に関して消費者の利益となり、正当な理由があると認められるので、独占禁止法上問題とならないことを示した(「新型コロナウイルス感染症への対応のための取組に係る独占禁止法上に関するQ&A」)。

 マスク以外でも買い占めによる品不足が生じ、高値販売による一般消費者の不利益を防止するという客観的な状況があれば、正当理由が認められる余地があるが、独禁法上、再販売価格の制限は、原則禁止とされ、正当理由を大幅に拡張することに対しては、慎重になる必要がある。

5.一般消費者と事業者の境界線

 事業者でなくても、一般消費者の転売の自由を奪うことはできないのではないかが問題となる。

 以上のような検討を重ねると、オークション等に出品する個人は、一般消費者か、事業者か、一般消費者と事業者との境界線は何かが重要な問題であることがわかる。この点は、令和2年8月19日に公表された「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会報告書」の今後の検討課題として、「新たなデジタル取引の出現等を踏まえたB(事業者)とC(消費者)との境界の在り方」が掲げられているところであり、今後整理が進むものと期待している。

6.現状の通販事業者の対応

 上記のとおり、議論が混沌とする状況において、通販事業者は、品質管理上の必要性、お試し割引販売等合理的な理由がある場合等(理由がなければ、通販事業者も自ら販売範囲を狭めることはしないと考えられる)は、一般消費者に限定して販売することを選択し、転売目的での販売を拒否できる。そのような場合は、転売目的の顧客には販売しない旨を告知し、その旨を内容とする契約を締結することは認められるであろう。次に、高額転売や品不足等一般消費者の利益を害する事態が想定される商品については、転売目的の顧客には販売しない旨を告知し、抽選販売、数量限定販売といった合理的な対抗策を用いる等が社会的に要請されているといえよう。

 一般消費者、需要者の保護は、通販事業者のみでなし得るものではなく、フリマサイトの中には、「生命身体に影響がある物品を不当な利益を得る目的で転売するとみなす商品の出品禁止」などの規約改正をしたものもある。通販事業者側とフリマサイト側の双方の取り組みが不可欠である。

太樹法律事務所 弁護士 高橋 善樹

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