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(2/2)危機管理対応の変遷と今後
その他

2025年8月28日

(2/2)危機管理対応の変遷と今後

(2/2)危機管理対応の変遷と今後

企業が知っておくべき「エア炎上」とは?

 さて、ここまで日本企業の危機管理の変遷と、抱えている問題について紹介してきましたので、ここからは最近の危機管理トレンドについてご紹介しましょう。

 まずこれからの日本で危機管理を担当している方たちにぜひ知っておいていただきたいのが「エア炎上」です。

 これは「非実在型ネット炎上」とも呼ばれるもので、簡単にいえば「表面的には炎上しているけれど、実はほんの一握りの人が大声で騒いでいるのをみんなが野次馬で見ているだけで、ブランドイメージの棄損や、経済的損害もほとんどない」というものです。そんな「エア炎上」の典型的なケースを紹介しましょう。

 今年2月、「赤いきつね 緑のたぬき」で知られる東洋水産がウェブCMを公開しました。女性が一人で「赤いきつね」を食べているアニメですが、その描写が「性的」「いやらしい」と一部のSNSユーザーが批判した投稿が大バズり、ネットニュースがそれを記事にして、東洋水産にはCMの取り下げや説明を求める声が殺到と報じました。しかし、東洋水産はこの騒動について何のコメントを出すことはありませんでした。

 一部のインフルエンサーなどは「企業として説明しないのはおかしい」などと東洋水産の対応に苦言を呈していましたが、私はネットの連載記事等で東洋水産の対応を「完璧」と称賛しました。なぜそのような評価になったかというと、炎上の状況を調べてみたからです。問題のウェブCMを「性的」「いやらしい」と批判しているのは、ほんの一握りの「少数派」だったからです。彼らが火をつけて拡散しているだけで、ほとんどのSNSユーザーは「ぜんぜん普通のCMだけどな」「これをどうやったら性的に見えるの?」というただの感想、もしくは批判している人々に対して否定的な投稿ばかりだったのです。つまり、彼らの投稿はインプレッション的には確かに大バズりしていたのですが、実はそれは「東洋水産の炎上」ではなく、「アニメの女性描写に過剰反応する人々の炎上」だったのです。

バズりや炎上を「数」だけで評価しない

 こんなものに東洋水産が対応をするメリットはゼロです。それどころか、釈明や反論をしてしまったら本当のダメージを被ってしまう恐れもあります。このウェブCMを「性的」「いやらしい」と感じる人々に、「この描写はこういう意図です」といくら説明をしたところで、「なるほど」と納得するわけがありません。言葉の揚げ足取りをして「そういう企画を発想すること自体が女性蔑視だ」とかさらに批判がヒートアップします。つまり、少数派に「炎上の燃料」を与えてやるようものなので、この場合は「無視」が危機管理的には最もベストな対応なのです。私も似たようなケースに何度か関わったことがありますが、すべて「無視」で収束しています。

 実際、このような対応をした東洋水産も無傷でした。「赤いきつね 緑のたぬき」のブランドイメージが低下することもありませんし、この炎上によって売上が落ちるということもありませんでした。これが「エア炎上」の最大の特徴です。

 みなさんもご承知のように今、ネットやSNSでは事実無根のデマや誹謗中傷があふれています。この手の「エア炎上」を仕掛ける人々も「不買運動」「株価暴落」「倒産寸前」などの強いワードを用いて、企業の危機や炎上を煽って大騒ぎをします。株価などはネット取引なので瞬間風速的に影響を受けることもあります。

 しかし、ネットやSNSをやっている人たちの多くは常識的な人たちなので、すぐにこれらの批判がおかしいものだと気づきます。「ああ、なんでもかんでも噛みつく人たちだ」「不買運動と叫びたいだけの人たちだ」と見抜かれるので、現実世界への影響力という点ではほとんどありません。

 ただ、そんな「エア炎上」を見抜けない企業もあります。先ほどのように、自社への批判的な投稿が大バズりした場合、その内容を細かく精査することなく、「ここまで批判的なコメントが寄せられているのなら、運用マニュアルに照らし合わせて会社として何かしら釈明や反論をしなくては」と経営者に判断を仰いでしまうのです。経営者もSNSのことなどよくわからないので、「マニュアル通りにやれ」となり、結果、難癖つけたい少数派に「炎上の燃料」を与えて騒ぎを長期化させてしまいます。この原因も実は「標準化ゆえの融通の効かなさ」と「社内に危機管理のプロが育ちにくい」という問題に突き当たります。危機管理担当者はぜひ参考にしてください。

(了)

報道対策アドバイザー 窪田 順生氏

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